児童相談所の児童福祉司へのインタビュー〜虐待で苦しむ子どもをなくすためにできることは?〜

2019年3月に、児童虐待防止法と児童福祉法の改正案が閣議決定され、以下の内容などが盛り込まれました。

・親権者によるしつけ名目での子どもへの体罰を禁止

福岡県紫野市の虐待事件では、「しつけ」と称し、8歳の女の子の体を縛り、水風呂に入れるなどの虐待を繰り返したとして、保護者が逮捕されました。こうした、「しつけ」名目での児童虐待を防止するために、児童虐待防止法に「体罰禁止」が明記されます。

・児童相談所での介入対応と保護者支援を行う部署の分離

児童相談所では、虐待で緊急に子どもを一時保護する場合などの介入対応と、保護者を支援していく支援対応を、同じ職員が行っている場合が多かったのですが、今後は職員をわけて業務を分担します。

これらの改正法について、現場の実情、また、子どもの幸せのために、保育に関わる私たちにできることについて、児童相談所で働く児童福祉司のかたと一緒に考えてみました。

―まず、児童相談所・児童福祉司のお仕事について教えてください。

児童相談所は、18歳未満の子どもに関することであれば、保護者に限らず、どなたからでも相談をお受けする施設です。専門のスタッフが相談やサービスにあたり、私はここで児童福祉司として働いています。

保護者の病気や死亡などで、子どもを家庭で育てることができなくなったときや、児童虐待などの人権に関わる問題があるとき、子どもの育ちで気になることがあるとき、里親として子どもを育てたいときなどに相談が寄せられます。それに対して、継続的な支援や一時保護、施設への接続などの対応を行います。

この中で今、特に多いのは、児童虐待に関する通報・相談です。

―児童相談所の虐待相談対応件数のデータを見ると、対応件数は増加していますが、やはり児童虐待増えているのでしょうか。

確かに、核家族化の影響で子育てが難しくなり、増えてきたとは言えるかもしれません。しかし、社会での児童虐待への認知度が高まり、掘り起こされているということも考えられます。ですから、明確な回答は難しいですね。

ただ、現場で働いている者としては、通報は増えているという実感があります。毎日たくさんの通報があります。

重度な虐待のケースには、それに1日かかりきりで対応するという状況です。

―やはりそうすると、人員不足というのが実情なのですね。

そうですね。私は、職員の増員に賛成です。

―児童福祉法等の改正で、介入対応と保護者支援を行う部署を分離するということが閣議決定されましたが、どのようにお考えでしょうか。

既に担当者がわかれている都道府県もありますが、私は現在、両方の仕事を担当しています。ただ、私は、担当をわけることにはデメリットもあると考えています。

というのも、引き離す必要のある保護者と支援する必要がある保護者とは同じだからです。虐待する親も、子育てに悩んでいて救いを求めています。それにも関わらず、介入と支援できっちり担当者がわかれてしまうと、これまで支援担当者を信頼していた保護者は、「これからこの担当者と相談しながら、がんばろうと思っていたのに」などといった複雑な思いや、施設への不信感を抱いてしまうかもしれません。

また、私たち職員は、保護者と対面して、保護者の表情やしぐさ、言い回しなどの言葉以外の情報も含めて思いを感じとり、判断を下していることがあります。担当者間で、それらのニュアンスや温度感、また保護者と話し合った内容の全てをもれなく共有することは難しく、そこでも保護者との信頼関係が損なわれるケースも出てくるのでは、という懸念があります。

ー機能をわけた方が、介入しやすくなるというメリットがうたわれていますが、もう少し柔軟性があるといいのかもしれませんね。

 話は変わりますが、保育士の資格を取得されたのち、児童相談所で働いていらっしゃるかたは身近にいらっしゃいますか。

はい。都道府県によって異なりますが、キャリア活用採用という採用枠もあります。保育園等での職務経験を経て、児童相談所で働いているかたもいらっしゃいます。

私たちは、緊急性の高い虐待等の通報があればすぐに対応します。保育者のみなさんと同じように、楽な仕事ではありません。でも、保護者や子どものために必要な支援を行いたい、専門性を活かして働きたいというかたには、やりがいをもって取り組める仕事だと思います。

 

ー児童相談所と現場の保育者も、連携することもあると思います。保育者などに希望することはありますか。

保育者のみなさんとは、連携することの多い仕事です。虐待などがあったら、先生がたにもお話を伺いますし、虐待が疑われる家庭の子どもをよく見てもらうようにお願いしたり、そのほかにも、心配なことがあったら連絡をいただいたりしています。

最近は、保育者のみなさんの児童虐待への理解が深く、園からの通報で、連携して動くということもよくあります。

ただ、まれなことではありますが、園や学校と、児童相談所の見解の違いなどで、関係機関が衝突してしまうケースもあります。

通報・相談があった場合、私たちは、保護者や子ども、保育者、教師、地域の声、検視結果などのさまざまな情報から客観的に判断するのですが、虐待ではなく、子どもが保護者や先生の気を引きたくて被害を訴えるようなこともあります。

児童相談所がさまざまな情報から分析し、「誤報だった」「虐待ではなかった」などと判断したにも関わらず、園や学校から「子どもは被害を訴えているのに!」などと硬直的な態度を取られてしまい、児童相談所との関係が悪化してしまうことがあります。

子どもたちの幸せのために、子どもを守り、家庭を支援していきたいという気持ちは、私たちもみなさんと同じです。敵対心をもち合うことなく、どんなときでも子どもの幸せを第一に考えて、一緒に連携していけることが私の願いです。

ー本当にそうありたいですね。

記事では紹介しきれませんでしたが、学生時代から子どもたちの幸せのために、さまざまな学びを積み重ねられて、今のお仕事に就かれているというお話を伺い、児童相談所の職員のみなさんの熱意を身近に感じることができました。貴重なお話をありがとうございました。

これを機会に、みなさんも、各自治体の児童相談所やオレンジリボン運動などのホームページなどで、児童虐待等に関する情報を収集・おさらいしてみるのもいいかもしれませんね。

子ども虐待防止「オレンジリボン運動」