<汐見稔幸先生インタビュー1>〜今は、大人と子どもの境目がない時代〜

現代の子どもたちの姿やこれからの時代に必要な関わり方について、汐見稔幸先生にインタビューを行いました。全3回シリーズでお届けします。

汐見稔幸(しおみとしゆき)先生プロフィール

東京大学名誉教授、日本保育学会会長、白梅学園大学名誉学長。専門は教育人間学、保育学、育児学。最近の著書に『汐見稔幸 こども・保育・人間』(学研)、『0・1・2歳児からのていねいな保育』(フレーベル館)など他多数。

ー現代の子どもたちの特徴について教えてください。

昔の子どもたちは、例えば地球の環境問題なんて知らずに毎日を過ごしていました。しかし、今の子どもたちは、環境問題の知識を断片的にもっています。それは、たとえ乳幼児であっても、テレビやインターネットでそういった情報にふれることができるようになったからです。このように、今の子どもは、昔の子どもと比べてはるかに多くの情報をもっているのです。

また、今の子どもは家でも外出先でも、長い時間を大人とともに過ごしています。

その中で、大人びた話し方や表情を身につけ、大人に合わせた会話をする子どももいます。

「いつでも無邪気に振る舞う」ことはちょっと難しい。子どもの心は残しつつも、大人の世界に適応しているのが、現代の子どもたちの特徴だと思います。

 

ー子どもらしさを発揮できない社会になってしまったのは、残念ですね。

確かにそういう面もあります。でも、「子どもだからできない」という制限もなくなってきているという捉え方もできます。

以前、こごまちゃんという料理人の子が話題となりました。8歳のときに日本酒検定(筆記)に合格し、その後もいくつもの料理コンテストで優勝している、高度な料理スキルと鋭敏な味覚を兼ね備えているお子さんです。

こごまちゃんのお母さんは、小料理屋をやっていて、こごまちゃんに小さいときから、本当においしいと思うものを食べさせていたそうです。味覚の発達するこの時期に、味を分別する繊細な能力が身についたのではないかと思います。

それにしても、8歳で日本酒検定(筆記)に合格しているというところがおもしろいですよね。

お母さんは、子どもだから「日本酒検定」はふさわしくないなどと決めつけず、子どもの能力に合わせた関わりをしたのだと思います。

将棋棋士の藤井聡太くんも現在活躍中ですが、今の藤井くんの活躍があるのは、やはり保護者のかたが「子どもだから」と制限をしなかったことも、理由のひとつなのではないかと思います。

ー何でも挑戦しやすい時代。そんなふうに考えると、制限のない、いい時代に生まれてきた子どもたちのようにも感じられます。

そうです。「大人」と「子ども」の境目も、わからなくなっている時代です。

「子どもだからできない」という制限はもうなくなっている。

「子どもだからできない」「そんなこと知らなくていい」という固定観念にとらわれないことが、これからを生きていく子どもたちに関わるときに大切な観点だと思います。

保育に関わる人の中には、「子どもの興味を止めないようにしよう」という思いをもっている人は多くいると思います。でも、そういうかたも「子どもはここまでやればいい」「子どもなんだから」などと考えてしまうことがないかというと、そうではない。これはほとんどの大人ができていないことなのです。

ー「子どもだから」といった固定観念にとらわれない関わり方をしていくために、保育者はどのような心がけが必要でしょうか。

「この子はシャイだから言えなくて」「人見知りをしちゃったんだよね」といった思いやりのつもりで発した言葉でも、裏には「緊張しやすい子」「コミュニケーションが苦手な子」といった意味が込められています。

「女の子だから」「男の子はもっと……」といった言葉で、その子の自信や可能性をつぶしてしまうこともあります。

「〇〇な子」といった枠で子どもを見たり、子どもに声をかけたりすることを、極力しないようにしていきましょう。

子どもは、この世に生まれてたったひとつの命を大切にしながら、夢に向かって成長していきます。保育は、そんな子どもたちの「自分探し」を応援する仕事なのです。

また、保育者自身が異業種や自分と違う考えをもつ人と交流するようにして、「枠」をとり払うことも大切です。そうした場に参加することが難しい場合も、旅行や習い事、食事、書籍などからでも異文化にふれることができます。積極的に知らない世界にふれ、自分の視野を広げて、子どもたちと関わっていただきたいと思います。