保育者インタビュー〜自分のやりたい保育とその現実〜

今回は、現役保育者と元保育者の2名をお招きして、自分のやりたい保育とその現実についてインタビューを行いました。

Profile

   保育者A…元保育士。30代女性。

   保育者B…幼稚園教諭。30代男性。

―あなたの勤めている(いた)園について教えてください。その園の好きなところも教えてください。

保育者B:私立の認可園で、自然豊かな園です。遊びの中で主体性を育てるという保育方針と、自然が豊かな環境が気に入っています。

保育者A:私は、認証保育所に勤めていました。認証保育所は、子どもを長時間預かってほしいという都市部のニーズに対応するために、東京都独自の基準を設けて開所している施設です。私の園は、7〜22時の間、開所していました。その園の好きなところは……あまり思い出せません(笑)。

―というと?(笑)

保育者A:理由はいろいろありますが、とにかく自分のやりたい保育が実現しづらかったです。子どもの担当制とは名ばかりだし、0、1歳児の統合クラスだったので、発達が違う子どもを見るのは大変でした。保育室が狭いので、絵本や制作、ままごと、積み木などのコーナー分けはできませんでした。

あと、おもちゃや材料費に予算を割いてもらえないので、園にあるもので遊ばせるしかありませんでした。シール遊びをさせたいときには、園にあったマスキングテープで遊ばせるなど、工夫はしていましたが……。

―おもちゃや材料は、子どもの発達を促すうえで大切なものですしね。

保育者B:逆にうちは、子どもが使いたい材料を「教材費」として捻出してくれる園です。

以前、幼児が牛乳パックで電車を作るうちに、「次は自分たちが乗れる電車を作りたい」と言いだしました。フレームはダンボールで作ったのですが、車輪や土台の木が必要でした。

園長に子どもの活動の様子と必要な材料を相談すると快諾してくれて、材料が手に入ってからは、子どもたちと一緒にノコギリやドライバーを使って乗れる電車を作りました。

―頭に思い描いていた夢の電車ができたあとは、それはもう「大満足!」という様子だったのではないでしょうか。

保育者B:はい。「作りたいものを作る」活動でこそ、達成感や自己有能感、問題解決力が育つと思います。決められたものを作る活動のときとは、子どもたちの熱中度も違います。

この活動では、「もっと窓をきれいに開けたい」という意見も出てきました。「どうしたら、きれいに開けられる?」と考えさせると、「定規を使ってみよう!」という方法に辿りつきました。始めよりも真っすぐな窓になったものの、自分たちの知っている角が90度の窓にはならない。最終的にはさしがねを見つけて、子どもたちの理想の直角の窓が開けられました。

木材やダンボール、工具などは、幼児にとって扱いやすい材料ではないからこそ、「僕が切るから、〇〇くんはこっちを持ってて。」などと協力し合う様子が見られましたし、ノコギリ、ドライバー、金づち、ダンボールカッター、定規やさしがねなどの道具を使い方を知り、使い分ける体験ができました。

―遊びの中で、道具の使い分けまで体験できたとは! 子どもたちはすばらしい学びをしましたね。

保育者B:ただ、園のお金の使い方全てに満足しているというわけではありません。経営者の独断で、遊具などを購入してしまうことがあります。

保育者A:うちの園も、制作の費用は出してもらえないのに、高価な椅子やままごとセットが園に届くということがときどきありました。

保育者B:よかれと思って、買ってくれているのはわかるんです。でも「そのお金は、子どもたちが必要としているものに使わせてくれ!」と思うこともあります。

保育者のみなさんの声を経営者・園長が聞いたり、話し合ったりする機会があると、保育者のみなさんにとって、さらに働きやすい職場になりそうですね。

ほかにも、保育をするうえで「もっとこうだったらいいのに!」と思うことはありますか。

保育者A:園の伝統や上の先生たちの考えにしばられて、子どもの発達に即していないことを子どもたちにしなければいけないことが、いちばんと辛かったです。

うちの園では、制作の年間計画を4月に全て立てていました。

個々の月齢でできることが違うのに、年間計画があることで、その活動を必ずその時期に、一斉にやらないといけません確かに、大まかなプランは必要だと思いますが、「今ならこんなもの作れるのに」と思うこともよくありました。

―子どもの発達をしっかりと学び、子どもたちの育ちに寄り添いたい先生たちほど、園の伝統や決まりに、苦しい思いをされることが多いのかもしれませんね。本当はそういう先生たちの下でこそ、子どもたちが大きく成長すると思うのですが。

保育者A:数年目からは少し反抗して、制作の年間計画は作りませんでした(笑)。先輩に目をつけられましたけど(笑)。

保育者B:保護者に保育の質の高さを見せるには、「作品」「発表」が大切、という意識が根強いですね。うちの園も、自由で主体的な活動を保育の目標に掲げているわりに、見栄えを重視して、劇の発表会までに決まったセリフを子どもに言わせるという活動をしてしまっているのは、今後の改善点だと思っています。保護者の人がそう求めるであろうと先輩たちは考えて、そうしているという状況です。

でも最近は、「ドキュメンテーション」を取り入れている園が増えてきています

「ドキュメンテーション」というのは、子どもの学びや気づきを、私たちの考察も加えながら、写真と文字で示したものです。これを廊下などに掲示して、保護者などに見てもらうことで、お仕着せではない、ふだんの活動の実態と成長を保護者に見てもらうことができます。

仕事は増えますが、趣味の範疇で私もやっています。「ドキュメンテーション」を、日誌に置き換えている園もあるようです。

―子どもの学びや気づきが保護者に見えると、保育者と保護者との関係をつくるうえでもよい影響をもつ気がします。

 

保育者B:はい。最近は、保護者にとって保育者は、「子どもを預かってくれる人」という認識が強くなっています。「ドキュメンテーション」を通じて、「保育者は遊びの中で育ちを促す専門家である」ということを理解してもらえると、私たちのモチベーションにもつながります。

―今回、保育者の退職の理由のほとんどが人間関係ということもわかりました。今後は、経営者・保育者間の上手な意見交換の方法や、保護者と保育者の関係づくりについても、深く掘り下げて特集していきたいと思います。

 

最後までお読みくださり、ありがとうございました!